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てんかんと診断された小学生ですが、本人も自分の発作に気付いてショックを受けています。どうしてあげたらよいでしょうか。

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てんかんと診断された小学生ですが、本人も自分の発作に気付いてショックを受けています。どうしてあげたらよいでしょうか。

 ご質問ありがとうございます。私の率直な意見を書かせていただきます。 発作を本人が自覚してショックを受けて悲しんでいらっしゃるとのこと、私にとっては意外な感じをうけました。というのも、私はこれまで数百人のてんかん患者さんを診療して来ました。その経験からは、嘆き悲しむとすれば必ず親御さんのほうでした。患者さん本人は子どもだから自分のことがよく分からないということもあるでしょう。でも、年齢が大きい学童でもショックをうけたことはなかったと思います。少なくとも診察室の場面では見かけませんでした。

私が診断する時には時間をかけて症状を出来るだけ詳細に聴取します。発作を目撃した人からと、患者さん本人である子どもからも、です。ということは、つまり本人にも症状の内容が伝わることになります。あえて隠さないようにしています。絶対とは言いませんが、それでショックを受けることはないだろうと経験的に思っていますので。逆に、これから長期間にわたる治療を行うに当たって、本人にもその自覚が必要だとも考えています。それがないと薬を飲まなくなってしまうからです。

もし、お子さんが自分の発作でショックを受けたのなら、それは大人と同じように病気を客観的に捉えられたからかも知れません。もしそうだとすると、まだ小学生だというのにすごい事だと思いますよ。子どもはあまり状況が分からずにスルーしてしまうのが普通ですから。なので、私としては意外に感じたという訳です。

大人であれ子どもであれ、病気の診断がつくのはショックなものだと思います。ましてや深刻な病気だったり、偏見を受けやすい病気だったり、誤解を受けやすい病気の場合は特にそうです。てんかんという病気はいまだに偏見がはびこっていますし、誤解されやすい病気です。だからショックを受ける人がたくさんいます。私に言わせると、てんかんは思っているほど深刻ではないということです。医薬の進歩によってかなりの人が治る病気になってきているのが実情だと思います。ただ、そうなるためには適正な診断と、それに基づく適正な治療を長期間絶え間なく続けなければならないという厄介さはあります。でも、そこまで医学は進歩したのです。子どものてんかんは大人になるまでに治してしまうのが小児科医である私の目標にしてきたところでもあります。そういうことを知って理解すれば、ショックから立ち直れるのではないでしょうか。てんかんの診療の情報はネット上でもいろいろなところで探すことは出来ると思います。まず手始めに日本てんかん協会のホームページから情報にアクセスしてみたらいかがでしょうか。もちろん主治医の医師からお子さんに即した情報(なるべく正確な診断名とその治療の流れ、予後など)を聞くのが最も近道と思います。それらの得られた正しい知識をお子さんに伝えればいいのではないでしょうか。主治医から伝えてもらってもいいでしょう。小学校の高学年なら理解できると思います。

ということで、知識不足が誤解や偏見のもとになります。誤解が解けなかったり、偏見が拭い去れないと、効果の保証されていない民間療法に走って医療からドロップアウトしてしまったり、自己判断で怠薬してそれまでの治療が水の泡になったりもします。私もそのような結果に終わった患者さんを経験しました。自分の言葉が足らなかったのかもしれません。伝え方がまずかったのかもしれません。いくら伝えようとしても通じなかった人もいます。残念です、治そうと思えばやりようはたくさんあったのに。ぜひ、正しい知識、理解のもとで治療に専念されることを望みます。

これは余計なことかもしれませんけど、子どもは大人が思いもかけない様な思い違いから深刻に悩んでしまうことがあります。この話は医学部の同級生の女の子から聞いたものです。その女の子が恥ずかしそうに打ち明けてくれました。子どもの頃、自分は子宮癌に侵されていると思ってずっと悲観していたというのです。理由は「生理が不順だったから」だそうです。女性の生理の周期は大体四週間ですけれども、子どもの場合はそんなに周期が定期的なものではありません。だから異常でも何でもないのですが、その子は子ども心に癌に侵されていると思い込んでしまったのです。医者になろうという聡明な子でもそんな思い込みをしたのです。今となってみれば笑い話みたいだけれど、当時は本当に苦しかったといいます。

私にも似たような経験があります。子どもの頃、学研の雑誌「科学」だったと思いますが、七月の末に大空から真っ黒な火の玉が天から落ちて来て人類が滅亡するというような話がグラビアに載っていました。たぶんノストラダムスの大予言のことだと思いますが。小学生だった私はそれを真に受けてしまったのです。そりゃそうでしょう、「科学」という名の本に載っているんだから、真実とばかりに思ったのです。よって、その日から七月の末日に向けてのカウントダウンが始まりました。火の玉が地球に衝突して粉々になって、家族がバラバラに宇宙空間に放り出される場面を想像しました。あと何日でコッパ微塵になるんだ、そう思うと心の中で震え上がりました。しかし表面上は平静を装っていました。だってどうしたらいいか分からないじゃないですか。

家族でご飯を食べていても気が気ではありません。ごはんの味などしないのです。でも、モクモクと食べました。そして家族の様子をうかがいました。滅亡の日が近づいているというのにみんなはどう思っているのだろう、どう感じているのだろう。しかし、一向に焦っている様子はありません。いつもと同じようにご飯を食べています。何も感じていないのだろうか、不思議でした。否応なく日一日とその日が近づいてきます。でも、世の中の様子は何も変わりません。いつもと同じようにテレビ番組をやっています。ニュースにもなっていない、学校の先生も何も言わない。おかしい、みんなどうしたのだ、もうあと何日も生きられないというのに。嘆き悲しまなくていいのか、みんな死ぬんだぞ。私は平静を装いながら死の覚悟を迫られてゆきました。

いよいよ今日だ、火の玉が落ちてくる。だというのに未だにまわりの人々には何の変化もない。いつ落ちてくるんだ。まだか、まだか。そう思っているうちに昼が過ぎ、夕方になり、夜になった。落ちて来ないのか。そう願いたい。この様子ならもしかしたら落ちてこないのかもしれない、時間が経つうちにだんだんそう思えてきた。いつものように夕食だ。何も変わらない。いつものように風呂に入って寝たのです。

朝、目がさめたら無事でした。予言は外れたのです。ホッとした。体中から氷がはがれ落ちるようだ。だけどそれだけじゃあ治まりません。だまされた。ひどいじゃないか、人を死ぬ気にまでさせて。恨めしい。もう信用なんかできない。この日以来うたぐり深い少年になったのです。

どうです、バカバカしい話でしょう。でも、当の本人にしてみれば本当につらかったことなのです。私の記憶に間違いがなければ、確か小学校五年生の時のことです。大人から見れば、何でそんなというような事でも、死ぬほどの思い違いをするのです。だから、発作を自覚したお子さんは、私や同級生の女の子みたいになってはいませんか。念のため確かめてみてはいかがでしょうか、自分の発作のことをどう思っているのか。もしかしたらこの発作で自分は死ぬんだとか、だんだん気が狂っていっちゃうんじゃないかとか、とんでもない思い違いをしているのかも知れませんので。


2013年12月9日

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