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小児科医のコラム11 手足口病

コラム11 手足口病

手足口病は、手と足と口に発疹が出るのが特徴である。まさにその名の通りである。だから「手と足と口に発疹が出た」と話を聞いただけで、かなり確信をもって手足口病を疑うことができる。典型的な発疹は、中心部の大きさが数o〜1p弱で、わずかに平たく盛り上がっていて、その下に白く濁った液体が溜まっているように見える。発疹の周辺は赤くなっている。このような特徴のある発疹が手のひらや足の裏、あるいはその周辺に見つかれば、それで診断確定である。

私が医学生だった時、小児科の試験にこの疾患が出題された。発疹が写っている口と手と足の写真が3枚並んでいて、「この疾患の診断を書け」というものであった。私は『ああ、あれか』と、すぐに連想できた。ところがである、いざ答えを書こうとしたら、詰ってしまったのである。病名が出てこない。口と手と足に発疹が出るのはわかっていた。病気の名前にも、口と手と足が並んだ病名だったことは覚えていた。しかし口と手と足をどの順で書くのか分からなくなってしまったのだ。うろ覚えだったのだ。情けなかった、おのれの不勉強に。

「口手足病」だったら覚えやすかったのに。体の上から順に書いてゆけばよいのだから。あるいは「足手口病」でもよかったのだ。下から書いてゆけばよいのだから。しかし実際はそうではなかった。普通なら「手足口病」くらいの病名などそのまま覚えてしまえばよさそうなものであるが、一夜漬けで焦っている身にとっては、記憶力に余裕がない。なんとなく覚えたつもりになっていたのだ。

口と手と足の並べ方は六通りある。
口手足病?
口足手病?
手口足病?
手足口病?
足口手病?
足手口病?

たしか、体の上からの順でもなく、下からの順でもなかったはずだから、「口手足病」と「足手口病」は候補から外れる。残りは四つだ。どれにしようか。鉛筆を転がすか。

何も書かなければ点はもらえない。どれか書けば当たる確率は四分の一だ。当たれば無事に得点となるが、外れれば零点だ。いや、それどころではない。当てずっぽうに書いたのは明白だ。バカ丸出し。教授は呆れることだろう。間が悪いことに、小児科の教授は自分が部長を務めるクラブの顧問をして頂いているのである。外れたら面目丸つぶれだ。どうするか。

私は四分の一の確率に賭けることにした。どれにするか迷いに迷った挙句、回答欄に「手口足病」と記入した。ということは、もうお分かりでしょうが、はたせるかな私の賭けは見事に失敗に終わったのでありました。

あ〜恥かいた。私は自分に向かってつぶやいた。
「俺ってバカだな〜〜」

ちなみに手足口病は英語では何と言うかというと、
「 hand, foot and mouth disease 」である。
hand=手、foot=足、mouth=口、disease=病気であるから、英語でもそのまんまである。というか、英語の病名をそのまま直訳したのが日本語の病名「手足口病」になったと思われる。