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小児科医のコラム12 ウニと葉巻

コラム12 ウニと葉巻

小さい頃から自分は家の中で遊ぶのが好きであった。縁側の日向で絵をかくのである。母が鉛筆やクレヨン、裏が白いチラシや画用紙を用意してくれた。戦艦をよく描いた。最初に船体を大きくかいて、それから大砲を加えてゆくのである。あらゆる方向から敵が襲って来ても大丈夫なように、四方八方に大砲を配置する。敵機のすばしっこい攻撃に対応するために、小さい大砲もつける。船体に大砲がない場所があると、そこが弱点になってはいけないと、そこにもつけ加える。こうして、しまいには大砲で埋め尽くされた戦艦が出来上がる。まるで巨大なムラサキウニである。もうこれ以上かき込めなくなると、次の紙に移る。新たに描いても、またウニになってしまう。せっかく描くからには「一番強い」戦艦だ。その思いしかない。だから毎回おなじ絵になるのだ。

あるとき私は戦艦に飽きた。そこで今度は、スピードの出るモーターボートにしてみた。まず、波打つ水面をかいた。その上に浮かぶ船体は流線型で舳先が鋭く突き出ている。中央には一段と高くなって運転席がある。どうせ描くなら「一番速い」モーターボートだ。私は船体にロケットエンジンを装着させた。しかし、他にもまだまだスペースが空いている。私はそこらじゅうにかき加えた、甲板の上にも運転席の後ろにも積み上げるように。ロケットエンジンで埋め尽くされたボートになった。まるで葉巻の束であった。以後、描くたびに葉巻の束に仕上がった。

私は気が付いた。自分はいつも、「一番を目指そうとする」思考回路なのだ。それが私の性分である。だからといって一番になることに拘るわけではない。なれなくても仕方がないが、それに近づけるように頑張るだけ頑張って、結果が出たらそれで終わりである。
だから、小学5年の時には、先生に出す年賀状に思いつきの抱負を書いた、「今年の目標はオール5だ!」と。当然目標は達成できなかったが、だからといって何とも思わなかった。しかし、先生からは褒められた、「オール5を目標にするなんて、えらい」と。どうやら先生は真に受けたらしかった。
母は私のことをどう思っただろう、変なウニや葉巻の束ばかり描くのだから。しかし、それらは私の思考回路そのものだったのである。

私は子どもたちの描いた絵に親しみを感じる。姿かたちが全く同じ人間が何人も描いてあったりするのだ。見る人によっては、単調でつまらなく映るかもしれない。もっと表情をかえたり、服をかえればいいものをと思ったりする。しかし、絵にはその子の思いや感じ方が込められている、「人を描くならこうでなくてはならない」という。私はそれを感じ取ってあげたい。