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小児科の診察室のエピソード49 骨髄バンク

コラム49 骨髄バンク

今まで骨髄ドナーの登録は献血ルームだけで行っていると誤解していた。改めて骨髄バンクのホームページを見ると、保健所などの行政機関でも行っている。そして、登録できる人にはいろいろ条件が示されてあった。年齢は五十四歳までとある。私の記憶では、以前は五十歳未満だったと思う。いつの間にか引き上げられていたのだ。

私は約六年前にやっとドナー登録を行った。前々から考えてはいたのだけれど、なかなか実行には移せなかった。というのも、その当時の献血ルームではドナー登録の受け付けは平日だけだったからだ。それだけのために仕事を休むなんて出来ない。手をこまねいているうちに五十歳の誕生日が近づいてしまった。このままだと年齢制限に引っかかってしまう、どうにかしなければと私は焦った。ところが幸いにも外出する用件が発生した。その空き時間を利用して都合よく登録に行く事が出来たのである。ちなみに、現在では土曜でも日曜でも受け付けるようになった。私を例に取るまでもなく、平日だけだと登録者が伸び悩んだのかもしれない。

それほどまでに私が自分の骨髄を提供したかったのには二つ理由がある。一つは多分ほかの人と同じであろう。人助けだからだ。しかも人の命を救うという究極の人助け。こんなことはレスキュー隊とか救急救命医を職業としない限り滅多に行えないことだ。ところが骨髄移植はドナーと患者さんとの組織適合抗原が合えばいいのだ。ということは誰にでもその可能性があるのだ。もちろん私にも。それだったら自分もやってあげたい。助けられた人も嬉しいだろうが、人の命を助けたという最大級の自己肯定感を得ることが出来る、素晴らしいじゃあないか。その充実感を自分も味わいたい。この世に生まれたからこそ出来ることだ。生まれた甲斐があるというものだ。これをやらない手はないのである。

二つ目の理由は、一人でも多くの人がドナー登録してもらいたいからである。そのためには医者が模範を示せばいいと考えた。率先して登録するのだ。そうすれば一般の人の目には骨髄移植が安全に映るだろう。安心感が広がってドナー登録してくれる人が増えるかもしれない。例えるなら農作物だ。出荷されたものと同じ作物を農家の方たちも食べていると聞けば、消費者はより安心である。逆に、農家の人が食べるものは出荷するのとは別に無農薬で作ったものだとしたら、消費者は不安だ。気安く買えなくなる。だから、骨髄ドナーだって医者みずからがなろうとすれば、一般の人もより安心して登録できるだろう。よって私もその一環となるべく登録したのだ。そして、折に触れて自分がドナー登録したことを打ち明け話として紹介して来た。それが人づてに多くの人に知ってもらえばいいのである。

ドナー登録が済んだら骨髄バンクから定期的にニュースレターが送られてくるようになった。骨髄移植の体験談が掲載されてあるのだ。ある時は、実際に骨髄を提供した医者の話であった。普段は忙しく診療している先生である。それが数日にわたって自分の医院を休診にしなければならない。骨髄液採取のために入院が必要なのだ。その時間をどのようにやりくりして作ったのか。またその間、掛かりつけの患者さんが受診できなくて困ることのないようにどんな工夫をしたか、そして医師としての感想が書かれてあった。この記事を読んだ人は、医者もやるのなら安全と思えたのじゃないだろうか。自分もやってみようと思う人が出てくればありがたい。私がやろうとしていたことを先に越されてしまった。もしかしたらその先生も私と同じようなことを考えたのかもしれない。

登録して五年が経った。私は五十五歳の誕生日を迎えた。ついに骨髄バンクからお呼びがかかることはなかったのである。これでドナーになる資格がなくなるのだ。まことに残念であった。後日、骨髄バンクから資格喪失の通知が届いた。これまでのドナー登録の感謝の言葉が記されてあった。そして、今後はニュースレターも送られないとのことである。しょうがないんだけど、もの悲しい心境だ。寂しいじゃないか、ある意味「お払い箱」の烙印を押されたのだから。
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