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小児科医のコラム69 偶然 その一

コラム69 偶然 その一

富山での大学生生活が残り少なくなってきたころのことです。もと同じアパートに住んでいた級友の一人が結婚することになりました。私はそれほど親しくしていたわけではなかったので披露宴にはよばれませんでした。話によると式はそいつの出身地の名古屋で挙げるとのことでした。それ以上のくわしいことを知ることもなく、そのこと自体すっかり忘れてしまいました。

一方、そのころ私は東京で会社員をしている兄から食事に誘われていました。兄も心配だったのでしょう、私がどんな医者になるのか。そして、故郷の群馬に戻って来るのかどうか。私は帰省した折、東京で落ち合うことにしました。場所は六本木のアマンドという喫茶店の前です。その店は地下鉄の駅の近くにあるからすぐわかるとのことでした。六本木がどこにあるのかも知りませんでしたが、地下鉄の路線図を見ながら無事にたどり着くことができました。

地上に出るとそこはにぎやかな交差点でした。あたりを見回しましたが、アマンドという店はどこにもありません。ピンク色の看板が目に入りました。ALMONDと書かれてあります。違うなあ。そこら辺をウロウロ探してみました。外人や芸能人かと思われるようないでたちの人でいっぱいです。店が多すぎます。富山の繁華街とは全くの別世界。埒が明きそうもない事はすぐ分かりました。それより迷子になることが心配になり、とりあえず元の交差点まで戻りました。

当時は携帯電話などない時代です。途方にくれました。角に立って兄を探すしかありません。するとその時です。なんと、あの級友が歩いて来るではありませんか。顔を見合わせて「あーっ」と声を挙げました。どうしてここにいるのか。相手は新婦もいっしょです。聞くと、ハネムーンに出発するために東京に移動して来たとのこと。昼間に名古屋で式を挙げた後、二人で夜の六本木を楽しんでいたのです。お互いつい昨日おとといまで富山にいた者どうしです。それが何も示し合わせたわけでもなく、何百キロも遠く離れた街角で、突然出っくわしたという訳です。まさかというような偶然に驚きでした。

その後、私は兄に発見されて無事にめぐり会うことができました。そこで兄に聞いてみました、アマンドってのはどこなのか。するとあのピンクの看板を指さしたのです。どうして、あれはアーモンドじゃないのか。それならそうとちゃんと振り仮名ふっておいてもらわなければ困る。はぐれたらどうしてくれるんだい。